はじめに
医療の進歩により、かつての不治の病の多くが克服され、多くの方が長寿を楽しみ、豊かに暮らせるようになりました。その一方で、かつては定年後に悠々自適な生活を送れた世代が、定年制度の延長やシルバー雇用、社会情勢の変化などにより、定年後に「長期間にわたって働く」あるいは「働かなければならない」といった状況になっています。高齢化社会において、このような人々が社会に貢献するため、そして自立して暮らすために、視機能を疾患から守ることはとても重要であり、今後20年の間に眼科医の果たす役割が今まで以上に大きくなることは間違いありません。
人々が眼の健康を保ち、自然に恵まれたこの美しい信州の健康長寿社会に参加し続けるために、信州大学医学部眼科学教室は優秀な眼科専門医を養成し、社会に向かって正しい眼科関連情報を発信し続けていく責務があります。「信州大学眼科専門研修プログラムで」は、以下のような眼科医の養成を目指します。
- 新生児から高齢者にわたる幅広い年齢層の患者さんに対し、的確な診断を行った上で、各々の患者さんの職業・生活に合った最善の治療を提供し、患者さんの社会復帰の手助けをする眼科医。
- 常に探究心を持ち、生涯にわたり患者さん、疾患から学び続け、学会発表や論文執筆を通じて科学的に思考できる眼科医。
- 地域におけるcommon diseaseから重症疾患まで幅広い知識・経験を持ち、地域での診療においては緊急度・重症度をただちに判断し、必要に応じて地域の中核施設に紹介できる能力を持つ眼科医。また、中核施設では、高度な医療を行う診療チームの一員として活躍する知識や技能を持った眼科医。
- 世界でも通用する幅広い知識や技能を持つ眼科医。
- 看護師、コメデイカル、他診療科医師からも信頼され、診療のリーダーとして治療の指揮をとることのできる人間性豊かな眼科医。
専攻医の皆さん、上記を目標に指導医、スタッフ、そして仲間たちと研修していきましょう!!
研修の特徴
本プログラムの研修基幹施設である信州大学医学部附属病院眼科は、メインテーマである糖尿病網膜症や網膜剥離、加齢黄斑変性などの網膜硝子体疾患、および教室の伝統である緑内障を中心に診療を行っています。中でも糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症の黄斑浮腫、加齢黄斑変性については、病態解明、そして新規治療法の開発において、国内外から高い評価を受けています。また、当科には長野県全域から紹介患者があり、令和2年度の手術件数は、内眼手術1,195件、外眼手術78件、レーザー手術196件で、眼科専門医が研修すべきほぼすべての手術を網羅しています。手術以外にも、原田病やベーチェット病などのぶどう膜炎、視神経炎や甲状腺眼症などの神経眼科疾患、網膜色素変性などの網膜変性疾患の診療も力を入れています。
地方大学である利点を生かした特徴ある診療
当科では地方大学である利点を生かして、特徴ある診療・研修を行っています。その1つとして、幅広く症例を経験できることがまず挙げられます。都会では、施設ごとにはっきりと眼科領域内での専門分化がされていることが多く、専攻医はその専門領域については深く研修ができる一方で、それ以外の症例経験に乏しくなってしまうことや、眼科救急疾患の経験をしないうちに、関連施設に赴任して苦労することがあるようです。当科では、全県内から網膜硝子体疾患以外にも、緑内障、角膜疾患、神経眼科疾患、穿孔性外傷、斜視弱視などの患者さんが紹介されるため、幅広く、そして偏りなく症例を経験することができます。また、眼科救急疾患のプライマリケアを学ぶことができるので、将来、地域医療の責任者として診療に携わる立場になった場合にも、緊急度、重症度を即座に判断し、必要に応じて地域の中核施設へ患者さんを紹介する能力を持つことができます。
もう1つの特徴として、地域独特の疾患を経験できることが挙げられます。例えば、家族性ポリアミロイドニューロパチー(familial amyloid polyneuropathy, FAP)のような全国でも主に長野県と熊本県にしかみられないような疾患の、特殊な緑内障や硝子体混濁などの診断・治療を経験することができます。この疾患は、他の都道府県で経験する機会はごくわずかしかありません。また、当院消化器内科から世界に発信されたIgG4関連疾患の症例も多くあります。それ以外にも難症例、希少症例も多いため、指導医とともに悩みながら診断治療に携わることにより、病態を考えながら治療を選択する能力を養えるとともに、学会で症例報告を行うこともできます。
設備
近年の医療機関の厳しい財務状況により、多くの医療機関において最新機器の導入が遅れがちになっていますが、当科外来には、広角撮影が可能な眼底カメラやOCTアンギオグラフィーをはじめとする最新型の機器が導入されているため、都会と遜色のない設備の中で研修することができます。手術室にも白内障手術装置「センチュリオン」、広角顕微鏡システム「リサイト」、硝子体手術装置「コンステレーション」が導入されており、低侵襲、高効率の内眼手術を学ぶことができます。
専門医取得までの
研修の流れ
専攻医として最初の1年間は、専門研修基幹施設である信州大学病院で研修します。指導医とともに、眼科特有の医療面接法や基本的な診察や検査法、手術の準備や助手の仕方などを担当した症例から学びます。指導医は 当症例ごとに異なるため、固定された指導医と1対1の関係で研修するよりも、偏りなく診断治療の方針や手術術式を学ぶことができます。それぞれの指導医の診断、治療法を経験しながら取捨選択し、自分流の眼科学を構築して いきます。 外来、病棟では、主に糖尿病網膜症や網膜剥離などの網膜硝子体疾患や緑内障を担当し、担当症例の手術の助手を務めるとともに、白内障手術や外眼部疾患の手術の執刀も開始します。また、FAPなどの地域特有の希少疾患や難症例、糖尿病網膜症やIgG4関連疾患など他科と連携を要する疾患についても学びます。時間外の救急疾患に対しては、交代で指導医とともに診断と治療法を学びます。 研修2〜4年目には、信州大学病院、および連携施設にて研修します。信州大学病院では、網膜硝子体疾患や緑内障について、さらに深く学んでいきます。連携施設では、熱いハートを持った指導医の指導のもと、主に白内障手術執刀の経験を増やしていくと同時に、学童の屈折異常や結膜炎、白内障などのcommon diseaseを地域医療の一環として学びます。施設によっては、学校検診にも参加します。以上の4年間に学会発表(うち1回は国際学会)や論文執筆を通して、論理的な思考法を学びます。そして専攻医5年目に専門医試験を受験しますが、研修修了後は、大学院での研究、信州大学病院でのsubspecialityの習得、関連病院勤務、国内・海外留学などの選択肢があります。